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(財)名古屋産業科学研究所研究部
2008年度研究会報告
磁気プロトニクス研究会  (代表 毛利 佳年雄)

 21世紀は、環境と調和した科学技術の創成が課題であると言われている。環境を地球環境の立場で具体的に言及すると、太陽エネルギー、水、空気、そして地磁気である。重力場も根源的な環境であるが、極安定場であるため意識されない。本研究会は、磁気、とくに地磁気を中心とする自然の磁気およびそれと等価な人工の磁気に着目して、水や生物への効果を研究している。この研究は、2000年に名古屋大学工学部の磁気センサ研究室と京都大学医学部探索医療センターの研究室の共同研究として開始され、その後静岡、岐阜の企業、およびJSTのメンバーが加わり、自然発生的に産学官共同研究に発展しているものである。「磁気プロトニクス」とは、周波数が0.160ヘルツ , 振幅が1 ~ 100ミリガウス(10マイクロテスラ)の超低周波微小交流磁気が、生物(細胞)内外の水分子クラスター H3O+(H2O)n  (H20水分子n個の環にプロトンH+がトラップされている構造)に地磁気(約50マイクロテスラの直流磁気)をバイアスとして作用してサイクロトロン現象を起こし、プロトン移動を活性化することによって、生体内のエネルギー物質ATPの生成能を増加して活性化させるという生体活性化原理である。

 平成20年度は、磁気プロトニクスの応用研究として、以下の4件を実施した。
① 山梨大学ワイン科学センターとワイン磁気プロトニクスの共同研究。
② 愛知県衛生研究所で、磁気プロトニクス水道水の水質検査。
③ 三重県工業研究所で、日本酒磁気プロトニクスの試験。
④ 名古屋市花卉卸企業で、バラ磁気プロトニクスの試験。

 これらの効果の検証は、ヒトの主観評価では明確であるが、客観的評価には複数年を要することと、既存の計側手段では判定が困難であり、多くの試行の累積による統計的処理が必要である。

 一方、本研究会とペアーの関係にある「高感度マイクロ磁気センサとセンシング研究会」では、この3月にSQUIDの性能を超えた超高感度磁気センサの「ピコテスラMI磁気センサ(pT-MIセンサ)」を試作し、ヒト、動植物の生体磁気が容易に行えるようになった。平成21年度は、このpT-MIセンサを活用して、磁気プロトニクス効果の数値的評価を行う計画である。

高感度マイクロ磁気センサとセンシング研究会  (代表 毛利 佳年雄)

 本研究会は、新規な高感度マイクロ磁気センサであるMIセンサ(アモルファスワイヤCMOS IC磁気インピーダンス効果形磁気センサ)の応用開発を調査研究することを目的としているが、この3月にSQUIDの性能を超えた新規なピコテスラの磁気検出分解能をもつ超高感度MIセンサ(pT-MIセンサ)を試作し、ヒト、動物、植物の生体磁気を容易に検出することに成功した。これは世界初の画期的成果であり、この5月に米国で開催された米国電気電子連合学会(IEEE)主催の国際応用磁気会議(インターマグ2009)でヒト骨髄磁気検出の成果を公表すると共に、IEEE Transactions on Magnetics への論文掲載が決定された(10月号予定。Human Spinal-cord Magnetic Field Sensing Using pico-Tesla Resolution Amorphous Wire CMOS IC Magneto-Impedance Sensor (pT-MI sensor))。骨髄磁気は、高度都市文明病である中枢神経系の障害(うつ病、不安症、運動機能障害など)の診断の新しい媒体として注目されているものであり、その検出法の発見は医工連携の成果である。

 本研究会の成果は、超高感度磁気センサの設計・試作の成功とともに、ナノテスラレベルで超低周波である生体信号の正体を解明する糸口を見出した点である。

 平成21年度では、このpT-MIセンサによる生体信号の実体解明を進めるとともに、健康(体調管理)、予防医療分野の新規なセンシング法の開発や、植物磁気のセンシング・モニタリングによる環境・防災センシング法の開発を進める予定である。

新規排水処理技術研究会  (代表 石田英樹)

 一般的に化学工場における排水処理には活性汚泥を使用した生分解技術を採用している。本法は易生分解物質を含む大量の排水を処理するにはきわめて有効な処理法である。しかしながら排水中に難生分解物質をある量含む場合には必ずしも最適な処理法とはいえない。難生分解性物質の効果的分解を行わせる処理法の開発について企業から依頼を受け研究会を立ち上げた。本研究会は新処理法として光触媒を用いたプロセスの採用を企業に提案し、この一年間その検討を行い以下の成果を得た。検討は実排水を用い触媒種、触媒量、光量等々を変え行った。その検討の結果、難生分解性物質も本法で行うことで容易に分解できることが判明した。これは生分解が易生分解性物質から消費してゆき難分解物質を残すという順序性を有するのに対し光触媒ではその順序性がなく触媒に接した物から分解してゆくからである。また、一般に触媒に悪影響を与えると考えられているハロゲンの影響も想定より小さいものであった。これらにより工業化検討に値する基礎的デ-タが得られそれらは委託企業に報告済みである。企業サイドではこの報告を受けパイロットプラントを作り実装置化の検討に入る予定である。ここでは今回の検討が極めて小規模な実験で行われた事からデータの再現性の確認、実装置化に向けた基礎データの取得が目的となる。
 企業による本検討に於いても名産研の採用をお願いしている所である。

資源循環システム評価研究会  (代表 藤澤寿郎)

 効率的な資源循環システムの構築は、持続可能社会の実現、とくに「待ったなし」と言われる地球温暖化の防止にむけて必須の課題であり、そのためには、提案されたシステムの温暖化防止効果だけでなく、経済性等をも考慮に入れた実現性の的確な評価が必要である。本研究会は、あいちゼロエミッション・コミュニティー構想の事業モデルのフィージビリティー・スタディーを題材として個々のシステム評価の実例を積み上げて、将来の評価システムの構築の準備を進めることを第1の目的とし、新たな産学官連携プロジェクトを企画することを第2の目的として、スタートした。

 第2の目的に関しては、愛知県資源循環促進センターとの連携により、経済産業省 低炭素社会に向けた技術シーズ発掘・社会システム実証事業に「非加水発酵技術の実用化と農商工連携による畜産バイオマス地域内循環システムの実証」を申請し、採択された。(事業年度 平成2021年度、 事業経費 110,000千円)。第1の目的に関しては、第一歩として、上記事業に上席研究員を地域コーディネータとして派遣することとなった。

認知症高齢者コミュニケーション支援機器開発研究会  (代表 久保泰男)

 認知症高齢者の介護はもっぱら施設・訪問介護者、家族の「人」に頼っているのが現状である。認知症高齢者の見当識障害の不安に対し、音、映像、スケジュールの情報をタミングよく適切に提供することによって、安心を与えていくため「コミュニケーション支援機器」を開発することを目的とした。これにより少しでも介護者の負担を少なくし高齢者の不安を和らげ、ストレスの少ない質の高い介護をもたらすことが期待できる。

 認知症の程度、住宅状況、高齢者の個性にあった多様なモデル機器・システムの組み合わせを研究し、実際のフィールドで用具・機器の組み合わせを試作し、「声かけ・見守り」機器の開発に結びつけるためにスタートした。本研究会は科学技術振興機構イノベーションプラザ東海との共催で実施した。

 現在、NPO福祉サポートセンター「さわやか愛知」で試作機による試験を実施している。この法人と本研究会メンバーはこのシステムを活用すべく独立行政法人医療福祉機構の長寿社会福祉基金の助成プロジェクトに応募した。

 また、3月15日に京都工芸繊維大学総合プロセーシス研究センターが主催するセミナー「認知症と記憶障害の方への工学的支援―最新技術によるケアの可能性を探る」で試作機による試験結果を発表した。

「720gへの道」研究会  (代表 笠倉忠夫)

 本研究の目的は、愛知県が策定した一般廃棄物削減計画の一つ「720gへの道」(処理しなければならないごみの一人一日当りの量を720gとする)に対して、高効率なエネルギー回収(サーマルリサイクル)が従来システムの代替案と成り得るかを調査・検討する事である。県のまとめた直近のデーター或いは廃棄物発生に関するマクロ分析に拠れば、発生抑制或いは従来のリサイクルでは計画達成が困難な事が明らかである。一方、エネルギー回収の効率に大きな影響を与える一般廃棄物中の廃プラスチックは、全国で年間500万トン排出され、処理内訳は13%が再生利用、17%が埋立処分そして残り70%が何らかの熱操作により利用又は処理されている。埋立処分は極力回避すべきであるが、調査結果から、再生利用についてもその市場性、コスト、環境負荷等で多くの問題を抱えている事が分った。他方、一般廃棄物中の廃プラスチック利用プロセスに関する研究の調査結果から、高効率を前提とするサーマルリサイクルが他のプロセスと比較して充分評価し得る事が分った。

 本研究会は、一般廃棄物中の廃プラスチックを分別せず他の廃棄物と一括収集し焼却・高効率発電するシステムは目的に適う代替案であると考える。 高効率発電を実現していくためには、広域化等による処理施設規模の大型化、そして現在の平均10%程度の発電効率を倍以上(20%)にアップする必要があるが、そのための技術的バックアップ体制は既に整っている事を確認している。むしろ今後の課題は、如何に住民との合意形成を計って提案システムを社会システムとして構築して行くかということであろう。

炭酸ガス回収型エネルギーシステム研究会  (代表 服部 忠)
共催 : JSTイノベーションプラザ東海,日本エネルギー学会ガス化部会

 将来の温暖化ガス排出規制強化に対して十分に対応するためには、現在の省エネルギーを中心とする対策技術だけでは十分でなく,炭酸ガスを回収、貯蔵するCCSCarbon Capture & Storage System)が不可欠となる.当研究会では、CCSを実現するための技術課題を抽出し,炭酸ガス回収型エネルギーシステムの地域モデルを構築するため,化学工学の視点から,次世代の技術開発を目指すプロジェクトテーマの提案を目的とし,以下の活動を行った.

 これら一連の活動の中で,研究会メンバー以外のデンソー,中部電力,J-Coalからも講師に招き話題提供を頂いた.また,活動項目4. については以下の提案を行った.

今後も提案内容をブラッシュアップまたは見直しつつ新たな提案を検討する予定である.なお,今年度は7回の研究会を開催した.

顧客インセンティブから低炭素型社会商品を浸透させる社会システムの構築 (代表 奥野信宏)

炭酸ガス削減の為には、特に家庭での炭酸ガス排出の削減が重要でグリーン購入のシステムが定着することが必要である。その為の社会システムを考える研究会を某社より資金を得て行ってきた。消費者(生活者)が従来使用していたものを低炭素排出型商品にエコ替えする時に、炭酸ガス削減量をポイント化して消費者、生産者、社会にとって良き方向を考え、産官学そして生活者の連携で社会実験を実施した。

得られた成果はJSTの「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」(担当 竹内恒夫大教授)に提案、また経産省の低炭素社会に向けた技術シーズ・社会システム実証モデル事業(担当 黒田達朗教授)に同じく提案した。

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